2022/03/04
シンガポールと日本『アニメゲーム業界の違い』
こんにちは。
株式会社バンダイナムコスタジオのテクニカルアニメーターのチュウと申します。
2021年の4月からBACKBONE様のリガー育成プログラム『リグ道場』に参加しております。
過去のブログ記事がほとんどテクニカル方面の内容なので、気分転換に別の話をします。
私はシンガポール出身なので、シンガポールのCG業界の歴史や日本との違いについて書こうと思います。
※私はシンガポールを何年も前に離れましたので、以下の内容は5年ぐらい前の話になります。
また個人的な意見になります。ご了承ください。
1.シンガポールのCG業界は若い
まずは、シンガポールのCG業界の歴史や構成について。
シンガポールのCG業界はまだ比較的に若くて小規模ですが、
およそ2000年頃に始まったようです。
当時は主にTVCM向けなどの映像CGが中心でした。
2005年ぐらいに世界中でCGアニメーションが人気になると共に、
しだいにアニメーションスタジオが増えました。
でも増えたと言ってもアニメーションスタジオは10社程度です。
2010年頃、世界中でゲームのブームが始まり、
海外大手ゲーム企業がシンガポールにいくつか子会社を設立しました。
それにより元々9:1ぐらいだった映像とゲームの比率は徐々に5:5ぐらいになりました。
また、ほとんどのゲーム会社はインディーズや中小企業で、
ILMシンガポールなどの大手企業は3~4社といった状況でした。
アニメーションスタジオも同じく、ほとんどはTVCMやテレビ番組の
補助をする制作会社で、中小企業が多い印象でした。
ちなみに、シンガポールの状況は日本とかなり違うので、
80人ぐらいになればかなり大きい会社に分類されます(CG会社的に)。
現在は当時にくらべて、ゲーム、アニメともに大手企業は増えたようです。
世界的に有名な企業だと、Riot、ILM、ILMxLAB、Ubisoft、Tencent Games Singaporeでしょうか。
海外では、アマチュアや同人制作だけではなく、会社での制作まで含めて「インディーズ」と呼ぶことがあります。
定義はややこしいですが、簡単に言えば
・大手ゲーム会社ではない
・大手ゲームパブリッシャーから開発金をもらっていない
になると思います。
もちろんこの定義は万全ではないですけど、海外の「インディーズ」と呼ばれている会社は、大体この枠に入っていると思います。
シンガポールでは、大手企業以外のほとんどがインディーズと呼ばれています。
インディーズゲームに集中して制作している中小企業は多いと思います。
2.テクニカルアーティストは希少
シンガポールには有能なアーティストとエンジニアがたくさんいますが、
私が現地にいた頃は、テクニカルアーティストはとても少なかったと思います。
当時のシンガポールのCG業界は大手企業3~4社が中心で、
その他は中小規模のCG会社が多く、大手企業は主にMaya、
インディーズや中小企業は3DSMaxを使用していたと思います。
大手企業が使用しているMayaはカスタマイズされている事も多く、
リグシステムもほとんど独自に開発されたものを使用しているので、
テクニカルアートに関わる機会も多いですが、
インディーズや中小企業では、3DSMaxのCATrigやBiped、
或いは簡単な自社製のものを使用しているので機会が少ないといった状況でした。
プライベートの勉強だけでAAAゲームのような最先端な技術を身につけるのは難しいので、
テクニカルアーティストを目指す、関わりたい場合は大手企業に入る、
といった流れが多かったと思います。
もちろん大手企業以外でもテクニカルレベルの高い会社もありましたし、
優秀なテクニカルアーティストもいましたが、業界の全体比率でみるととても少なかったです。
最近では、中小企業で制作されたゲームの品質が驚くほど上がっていて、
AAAではなくインディーズでもない高品質なゲームタイプ(いわゆるAAかIII)も登場しています。
プロシージャルアニメーションなどの技術も多用されていて、ビジュアルやモーションもAAAのクォリティに迫っています。
このトレンドを見れば、恐らく近い将来、シンガポールにもテクニカルアーティストが増えて、
全体的なレベルも上がっていく気がします。
実際にインディーズや中小企業で、積極的にテクニカルアーティストを募集、採用する動きが進んでいるようです。
3.社風
社風は日本と比べると結構違います。
シンガポールは「East meets Westのところ」とよく言われていますが、
西方の自由な社風と、東方の上下関係の社風と両方が混ざっている感じです。
職場会での雰囲気はとてもリラックスしていて、行動や会話は自由です。
同僚や上司とSNSで繋がっていることも多いですし、プライベートで遊んだりもします。
日本の環境と似ていますが、一番大きく違うところは社員の育成だと思います。
もちろん会社によると思いますが、入社後すぐに本作業に入る事が多く、
新人研修があったとしても数日しかもらえない印象が強いです。
また、新人であっても入社後に実績を出すことをより期待されます。
新人がミスをした場合も、ミスはミスとして厳しく見られることも多いです。
あくまでも個人的な経験や感想なので、会社や上司によると思いますが、
言いたいのは、結構、実力主義な社会だという事です。
4.業界内の人口統計
シンガポールは人口が少なくて人材不足なので、外国から採用することも多いです。
特にゲーム会社では多国籍な人々に出会えます。
それぞれ母国語が異なるので共通言語として英語を喋ります。
このような多文化な環境だと、想像できないような発想が生まれることも多く、
毎日がとても刺激的です!
自分の体感で正式な統計の数字ではありませんが、
業界内の年齢層、男女割合は以下ぐらいかと思います。
繰り返しになりますが、あくまでも5年前の印象です。
- 20代
アニメやゲームは王道になっているので、男女の割合はあまり差がありません。
30代や40代の層に比べると、全体的な割合は少し減ってきているようです。
ここ最近は少し人材的に埋まっているようで、新卒の募集は少し減りました。
世知辛いですね。
- 30代40代
男女の割合は男性の方が少し多く、5~15年の経験者が多いです。
自分も含めて、2000年代後半~2010年代前半のCGブームがきっかけで参入された方が多いようです。
当時はアニメやゲームはそんなに主流ではなくて、CGはまだオタク感がありました。
- 50代
シンガポールのCG業界は2000年頃ぐらいから始まったので、
一番年上のパイオニアの方達は、大体20~30代でCG業界に入って
現在およそ40~50代になっていると思います。
- 60代
60代はほぼおらず、いたとしても大体は別業界から転職したケースです。
この年代でCGに興味のある人達は、ほぼ全員男性だと思います。
女性のほとんどはイラストや美術指向で、CGを選んだ人は非常に珍しいです。
5.まとめ
シンガポールのCG業界はまだ若いですが、優秀な人がたくさんいて日々成長しています。
リグやテクニカルアートのレベルが上がっていくのは時間の問題だと思います。
色々と書きましたが、シンガポールのCG業界を少しでもご理解いただけたらと思います。
ここまで読んでいただいて、ありがとうございました。
ではまた!
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